桜色の人鳥

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即興小説part04【雨】

公募の締切が近いので、しばらく即興小説に頼る事になりそうです。
というわけで今日の物語。
毎回ですが、読み直しはしておりません。

【雨】
桜色の雨が降っている。それは別に桜の比喩であるとか、色を付けた水などではない。ただ桜色をしていて、それが自然な事であるかのように降っている。
 誰もが足を止め、その自然的な不自然を眺めている。中にはぺろりと舐めてみたり、コップを取り出し採取しはじめる者もいた。私はその中で一人、平然と歩いていた。
 知っていたから。この雨が何なのか。いや実際そうであると言い切れる証拠を提示する事は出来ないが、他に理由がない。
 この雨は奴の悪ふざけだ。
 昔、奴はまだ元気だった。何故かよく私に絡んできて、自分勝手に連れまわされた。奴は出不精な私を無理やり外に連れ出し、カラオケやら居酒屋やらボーリングやら……私はあまり好きではなかったが。
 奴の好きなものは桜と雨。好きな色はピンクと黒。これだけ聞くと、おしとやかなイメージだが、実際の奴はおしとやかとは正反対であった。奴は「早く死にたい」と良く口癖で言っていた。「どうしてか?」そう聞くと奴はこう答えた。
「分からない」
自分でも分からないのかと私は呆れていた。「死んだら何をしたいか?」と聞くと、奴は「幽霊になって銭湯を覗きに行こうかな」などとふざけた事をぬかしていた。
 ならばと私は約束させた。「死ぬのは勝手かもしれないが、死んだ後に幽霊の存在を証明してくれ」と。
 すると奴は笑いながら任せてくれ、と自信満々に言ってのけた。どこからその自身は湧いてくるのかと思うが奴の事を考えるだけ時間の無駄だ。
 一生こいつに付き纏われていらいらしながら生きるのか。そう考えていた。しかしそうはならなかった。 
奴はついこの間突然死んだ。死因は知らない。別に聞きたいとも思わない。事前に何かあったわけでもない。死ぬ寸前まで奴は奴のままだった。本当に憎たらしい奴だ。
 前に何故私に付きまとうのかと怒った事がある。しかし奴はそれすら笑いながら「分からない」と答えたのだ。あの時は本当に腹が立った。それならば付き纏わないで欲しかった。私は嫌でも奴と近い距離にいてしまった。
 雨はまだ降っている。しかし先程より明らかに弱まっていて、もはや小雨と言った方が正しい。
 小さな小さな雨粒は私の頭にぶつかり、はじけ、万遍なく体を濡らし馬鹿にしてくる。
 奴がいつものように私に付きまとう。いつもそうだった。
 私が寝ている時も無理やり起こされた。
 私がご飯を食べに行くと必ずついてきた。
 私の悪態にいつも笑っていた。
 私が風邪の時も怪我をした時も辛い時も悲しい時も嬉しい時も楽しい時も必ず……奴はいた。
 雨は既に弱々しく、いつ止んでもおかしくはなかった。一粒一粒が重く、深く、悲しく、そして優しく笑いながら体に付き纏う。
 知っていた。これが最後なのだと。奴の最後の悪ふざけなのだと。
「この後の予定は……?」
 私は独り言のように語りかける。
 奴は笑いながら答えた。
「分からないけど、とりあえず……またな」
 奴の声が聞こえた気がした。
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*Comment

雨…… 

これもまた不思議なショートショートですね。
桜色の雨、ちょっと興味を惹かれました。
「奴」って誰なんだろう。
もしかして主人公の分身?
  • posted by さやか 
  • URL 
  • 2015.02/23 15:08分 
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