桜色の人鳥

適当理論と小説置き場。たまに日記。小説を読むときはカテゴリ「目次」から。

Entries

即興小説part11【我慢】

即興小説って書ききった満足感で読み直しする気力が残らないですよね……。
と言う訳で今回は即興小説。

時間:30分
お題:かっこいい靴
要素:なし

【我慢】
 隣の家のそのまた隣、僕の家の何倍の大きさだろうか。小さな僕が見上げると、後ろに転げそうになる。この家の子は僕の友達じゃないけど、たまに見かけると挨拶する。あっちは当たり前であるかのように無視をする。
 僕よりおもちゃを沢山持ってて、僕よりふくよかで、僕よりいい服を着ている。それをうらやましいと何度も思うけど、僕は知っている、僕の家は貧乏だ。だから大体の事は子供なりに我慢してきたし、口に出さなかった。ただ態度に出ていたのだろうか? 父が僕に欲しいものはないかと聞いてきた。そりゃもちろん沢山ある。テレビに出ている仮面ライダーのベルトも欲しいし戦隊パンツも欲しい。
 僕は何もないよと答えた。

 僕の通う小学校では毎年マラソン大会がある。走るのは嫌いではないけど得意でもない。しかし父が必ず見にくるので毎年一生懸命走っている。
 あまり良い成績はとれないけど、走っている僕に頑張れと言ってくれる父が好きだから。
 そのマラソン大会も明日へと迫っていた。体育の時間になると、みんなグラウンドを駆け、明日への意気込みを態度で示している。僕も思いっきり走りたいのだが。走る事は出来ない。
 靴ひもが何年も酷使されたせいですり減って今にも切れそうなのだ。だから今は走れない。新しい靴を買ってもらおうと一瞬考えてしまったが、そんな事頼めるはずもない。
 明日もしかしたら靴ひもが切れてしまうかもしれない。でも途中で切れたとしても走る事は出来る。でも今日切れたら父にそれが見つかってしまう。
 僕はただ我慢した。

 マラソン大会当日、幸先の良いスタートでそれなりの順位をキープしていた。出来るだけ焦らず、それでいて虎視眈眈と上位を狙う。毎回後半になるとばててしまうのを反省しての作戦だ。
 しかし、不幸な事にやはり靴ひもが切れてしまった。想定したとはいえ、切れないで欲しいという気持ちはあった。これでは父に良い所を見せられない。
 僕は泣きたい気持ちをぎりぎりでこらえながら走る。そのたびに靴からかかとがはずれ、がぽがぽと脱げかける。
 それをただ我慢する。

 後ろにいた皆はどんどん僕を追い抜かしていって、ゴールし始めた。後ろを振り返る余裕はないが、たぶん残るは僕だけだろう。先生とクラスメイトの応援が遠くに聞こえる。
 誰かが頑張れって言ってるけど誰なのか確認も出来ない。焦りから息が乱れ、疲労し、目が薄い涙で歪む。
 もはや歩いているのか走っているのか自分でも分からなくなった。
 ゴールは目前、その少しの距離が非常に長い。一体何が悪かったのか。僕が我慢したから、家が貧乏だから、靴ひもが切れる運の悪さか。
 ゴールテープに体を押し付けるようにゴールし、そのままゆっくり速度を落として止まった。先生がよく頑張ったねと褒めてくれる。
 僕はただ辛かった。

 マラソン大会の閉会式を終え、帰りの会を済ませた後、玄関で父が待っていた。
 父は私の靴を見てそっと頭をなでながらこういった。
「かっこよかったぞ」
 僕は涙を我慢しなかった。
スポンサーサイト

*Comment

 

親子の愛がじわ~っと
伝わってきますね

いい感じです
  • posted by ぴぴ 
  • URL 
  • 2015.02/25 20:10分 
  • [Edit]

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

右サイドメニュー

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR