桜色の人鳥

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趣味小説【出来そこないの水たまり】

公募期間に間に合ったからといってすぐ気を抜いてはいけない(戒め)
と、言いながら時間が微妙に出来たので、今回は空いた時間にパッと書いた短編です。

【出来そこないの水たまり】

 原因不明の頭痛に悩まされながら、部屋の中央わざわざベッドからおりて横たわりながら悶えている。ベッドの上でないほうが傍目から見て重症に見える気がする。見ている者はいないのだが。
 街中で誰も見ていないのにやけに髪型を気にする心理に似ている。一々すれ違った者の記憶などとっておけるはずもなかろうに。
 それでもついやってしまうあたり人間らしいと思う。
 一通り頭痛で苦しむ人を演じて見せた後、優しさ半分の頭痛薬をしょうがなく飲み込む。
 胃の中で優しさに包まれた薬は苦味を見せるが、すでに舌を通った後、今更味等感じない。
 しばらくすれば頭痛は消えるだろう。また誰かが私を気遣ってくれる理由が消える。
 風邪でもひいてこようか、そして堂々薬局へ具合の悪い顔を見せつけ心配させたい。
 思い立ったが吉日、薄手のコートを羽織り部屋のドアを開けた。
 天気は曇り空、先程までカーテンを閉め切っていたため今日初めて空の様子を観察する。
 何と運がいいのだろう! 雨が降れば風邪をひきやすくなる。
 曇り空の下、薄手のコートを羽織り、意気揚々と近所をうろつく。恐らく傍目から見たら不審者に見える事だろう。見ている者は……こちらからは確認できない。
 目の前の丁字路を左に曲がり、住宅街を抜け、しばらく歩く。
 天気はさらに不機嫌さを増し、私はさらに機嫌が良くなる。
 この後の事を考えるだけで、足元に転がっている石を蹴飛ばすのが面白く感じられる。
 家を出た時はただ外に出る事しか頭になかった。明確な目的地はなかったのだが、いつの間にか公園の近くを歩いている事に気づいた。
 この公園は私が子供の頃よく遊んでいた公園である事を覚えている。
 お母さんが私を連れて来てくれていた。私は近所の子供達と砂で山を作ったり、滑り台を逆からのぼったり、シーソーで股を痛めて泣いたりしていた。お母さんはそんな私の様子を見ながら笑っていた。どんな時でも私を気にかけてくれていた。
 懐かしい思い出に浸っていると、公園は既に目の前だった。
 遊具はシーソーだけを残し全て撤去され、猫やカラスや風や落ち葉、もの悲しさ達が公園を占拠している。
 吸い殻で包囲されたベンチに腰掛け、今はない子供時代に目を凝らす。
 そこには子供の頃の私が立っていた。一所懸命に砂を積み上げている。崩れても崩れてもいずれ山が出来る事を信じて疑わず、砂を積み続ける。
 そこに友達が集まり始め、全員で砂をかけ始める。スコップで、両手で、腕で、自分の靴をつかって。
 砂山は高く、少しずつ高く、崩れてもそれ以上に高くなる。
 山は出来た。子供にとって今この瞬間、富士山より大きく何もよりも価値のある山。
 子供の私はくるりと私の方へと振り向く。何かを訴えかけるような顔をしている。
 何を求めている。今の私に何を……。
 
 笑った。子供の私は笑った。
 私の隣にはお母さんが座っていた。お母さんは笑った。
 子供の私は満足したようにまた遊び始める。
 そうだ、お母さんはいつもここで笑っていた。私が振り向くといつも笑ってくれた。
 今はもう笑ってくれるお母さんはいない。
 誰も笑いかけてくれない。気にしてくれる人はもういない。
 今私は何をしているのだろう。
 思い出を洗い流すように雨が残酷に降り始める。
 雫の一粒一粒が、目の前に落ち、視界に写る思い出を現実へと塗りなおしていく。
 その内私は……一人になった。
 あれ程までに心待ちにしていた雨は、悲しみを纏い激しさを増していく。
 いつのまにかまた頭痛がしている。薬を飲まなければ、しかし辛くて動く事が出来ない。
 それは頭痛だけが原因ではない事は自分でもわかっていた。
 うなだれるように地面を見つめると、足元に水たまりが出来はじめていた。しかし私の陰になっている部分には水がたまらず、不完全に欠けていた。出来そこないの水たまりには私だけが一人反射して写っている。雨が顔を濡らし、伝って落ちた雫が水面を揺らす。
まるで泣いているように見えた。

「どうしましたか?」
 突然横から聞こえた声の方を振り向くと、スーツを着た男性が心配そうな顔で私を見ている。男性は靴を極力濡らさないように駆け寄ってきて、私の頭上に傘を掲げる。
「具合が悪いのですか!」
 男性は必死に声をかけてきてくれる。
 私はもう泣いていた。
「ありがとう…――」
 必死に声を振り絞り立ち上がると、男性は肩を貸してくれた。
 大きな水たまりをよけながら、二人で公園を出た。

 振り向くと、私がいた場所には水たまりが綺麗に出来ていた。
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