桜色の人鳥

適当理論と小説置き場。たまに日記。小説を読むときはカテゴリ「目次」から。

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即興小説part19【部屋とYシャツ】

時間:15分
お題:部屋とYシャツとユートピア
要素:携帯

【部屋とYシャツ】
 今日で何日目であったか。日の光を久しく浴びていない。最後に誰かと顔を合わせ会話をしたのは何時であったか。
 敷布団がしんなりと湿気を持ち、私の体とうまい具合に絡み合う。少し歩けば埃が舞い私の喉を傷めつける。机の上に乗っているおにぎりは何時からあっただろうか。お腹が減ったら後で私の胃袋へとしまいこもう。
 時計の指し示す時間は十二時二十八分。夜か昼かは分からない。それにあの時計が壊れていない保証もない。
 服を脱ぎ、小さなキッチンで服を洗う。洗剤等は無い。手もみにこそ日本の心が詰まっているのだ。そう言い訳をしながらごしごしと汚れを落とす。洗い終わった服を絞り、ハンガーで壁に吊るす。いつも決まった位置干していたせいなのか。そこからカビが繁殖し、病気をまき散らしている。
 ゴミは引き出しに入れていたのだが、許容量を超え、今では空いているスペースに重ねて置いてある。
 私の世界はこの部屋の中と、携帯電話だけだ。携帯の電源を入れる。もちろん契約は切れているので、メールも電話も出来ない。だが思い出す。私がこの部屋に閉じこもる前の記憶を。
 連絡帳の名前を見る。こいつは友達だった。こいつとはよく飲みに行った。こいつは……。
 ふと、クローゼットに目が行く。この部屋で唯一私が手を触れぬ場所。中には一枚のYシャツ。あれは母がくれたものだ。就職する時に記念に買ってもらった。お金がないからスーツは買えなかったと申し訳ない顔をしていた。
 もう一度手を伸ばせば、おそらく私はまた外へ出てしまうだろう。そしてまた打ちのめされこの部屋に戻るだろうか。
 期待はしない。私は自分を諦めた。
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