桜色の人鳥

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連載小説【人鳥と亀】-最終

最終話「求める物」

 今日も今日とて太陽は昇るのか、いい加減休んではどうか?
 太陽を求める生物は多いと思うがたまには休ませてはどうだろう。
 私はここに太陽の為の休日の設立を申し立てる。受理してくれる施設はここにはない。
 いつもの如く朝を嫌って目を閉じていたが一向に眩しくならない。カメも私に悪態をついてこない。
 どういうことかと目を開けると、雲が太陽を隠し私を守ってくれていた。ただ雪を降らすのは余計だ。
 私はここに雲の為の休日の設立を申し立てる。
 しかし今日はカメより私の方が早く起きた。これは昨日の仕返しをする運命にあると神が告げている。
 お尻の下にいるカメに向かって聞こえるよう大きな声で皮肉たっぷりに声をかけた。
「カメは相当寝起きが悪いんですね。私はもう起きてますよ」
 口調の真似をされるのは悔しかろう。どうだカメ、最悪の寝起きを迎えるがいい。
 しかし、しばらく待ってもカメは無言のまま起きない。
 まさか私のお尻の下で窒息でもしたかと焦り、もそりと巣から飛び出た。
 カメは甲羅の中に自分を収納したまま動かない。
 生きているのかと疑いはじめた頃、ようやく手足を出し、私の方へ歩いてきた。
「生きているなら返事をしたらどうか」
 私の問いかけを無視し、カメはお尻の方へ潜り込もうとする。
 いつもなら悪態の一つや二つ返ってきてもおかしくないのだが、今日は様子が違う。
 そういえばカメは以前あったかい生活をしていたのだったな。寒いのが苦手なのは知っていたが、私の考えている以上に重要な事なのかもしれない。
 飯を捕りにいってやりたいが、私がここを離れればカメはどう寒さをしのぐ。昨日のように待たせては死ぬかもしれない。
 前向きな思考が出来ないなら横を向いてみればいい。そこには仲間がいるはずだ。
 カメを誰かに見ていてもらおうか。しかし私には頼れる友人や親はいない。
 同様に餌を持ってきてもらう事もできぬ。
 ここに来て自らの交友関係の狭さが私を痛めつける。痛めつけられているのは私ではなくカメか。
 親が死に、友人が死んでからは独りで生きてきた。実際に今まで生きてこられたのだ。今更他の仲間と話す必要もなかろうと、会話相手は自分しかいなかった。
 必要のない事ならしなくて良い。そう考えてきたが今は事情が違う。頼れる者がいないなら今からでも作ればいい。例えそれがカメのように同類でなくとも。
 私は動かないカメを冷えないよう石の中に埋めてやり、とある生物をおびき寄せる事にした。時間はあまりない。鋭く棘のような氷に、自分の翼を押し付け血を流す。それを近くの海の中へばら撒いた。しばらくするとアイツが、普段なら会う事すら避けるアイツが私を食いに来た。水しぶきがあがり、海面から「アザラシ」が現れ私に襲いかかる。
「待ってほしい! 私を食べる前に話を聞いてくれ!」
 しかしアザラシは話を聞かない。それでも私の短い脚では逃げる事も出来ないのだ。ここでとめるしかない。
「私三つ分の飯をやる。だから話を聞いてくれ!」
 飯につられたのかアザラシは、私に噛みつく直前に動きを止め、ゆっくりと顔をあわせると口を開いた。
「話を聞こうじゃないか」
 天敵であるアザラシの声をきいたのは初めてだった。何故なら出会った瞬間会話等する暇もなく襲われてしまうから。今こうして私の声に耳を傾けてくれているのは奇跡に近い。私がオキアミの都合等知ったことかと食べてしまうように、普通は会話等しようとも思わない。このアザラシがまだ穏便な方で助かった。
「私の巣の上で眠っていてもらえないだろうか。ただそれだけでいいのだ」
「お前に何の得がある?」
「巣が……温まる」
 実際には巣の中にいるカメが温まる。
「それだけか?」
 恐る恐る「もちろん」と答えると、アザラシは上体を反らし、豪快に笑い始めた。
「面白いペンギンだ。寝ているだけで飯を持ってきてもらえるならば、俺にも断る理由はない。その代わり約束は約束だ。ペンギン三つに値する飯を持ってこい」
「分かった」
 約束を破れば私は殺されておしまいだろう。あまり時間をかけるのもよくなさそうだ。急いで飯を集めねば。私は手当り次第に魚を捕った。胃袋の限界が来ようとも、戻してしまいそうになろうとも。胃袋に餌を大量につめこんだままアザラシの元へもっていった。しかしアザラシは「足りない」としか言わない。合計三回も繰り返したが一向に満足はしてくれない。魚では駄目だ。もっと違う何か。肉……ペンギン。
 遠くに仲間の群れが見える。また誰かが海に飛び込むのを黙って誰もが見ている。仲間達は自分の事だけを守っている。自分以外の誰かを犠牲にしている。何故私はそうしない。私は何故カメを守ろうとしているのだろう。ここで逃げ出してしまえば私は殺されることはない。でも残されたカメは死ぬだろう。それを考えた時に私は吐きそうになる。あの憎たらしい皮肉と、ひょうひょうとした態度、私の世界を広げる知識、何気ない会話、全てを失ってしまう事の苦しみは想像もつかない。私は仲間よりカメをとった。
 群れの一番後ろに並び、私は転んだ。目の前の仲間に全体重をかけ、ぶつかる。ぶつけられた仲間は盛大に前のめり、またその目の前の仲間にぶつかる。連鎖的に全体が転びはじめ、海の近くにいた仲間は次々に海へ転落していく。後は運だ。今日に限ってはアザラシに頼るしかない。
 騒ぎが収まり、全員が海へと注目する。静まり返る中、海面に血が滲みだした。それを見た仲間達はすぐに別の狩場をみつけに歩きはじめる。だが私はその場に残った。私の目的は、残飯だ。黙って待っていると、仲間たちの残骸が浮かんでくる。それを一つ一つクチバシでくわえ、岩場の裏に運び出す。全て回収しおえると、それなりの量があった。それを咥えられるだけ咥え、約束したアザラシの元まで運んだ。血まみれの体と、同類であるペンギンの肉をもってきた私を見たアザラシは目を丸くした。
「殺したのか、仲間を」
「殺したのは貴方の仲間だ」
 黙って目をつむるアザラシの次の行動に、内心恐れを抱きながら言葉を待つ。
「仲間の血を浴びてまで約束を守る理由がお前にはあるのか」
「あった」
「俺は寝ていただけだ」
「それでいい」
 そう告げた後、私は残りの肉も全てアザラシに渡した。アザラシは「面白かったぞ」と言い残し、きちんと約束を守って海の中へ戻っていった。仲間達は私の事などどうとも思っていないだろう。何せ自分の家族以外の見分けが付かないのだから。誰かがやらかしたとして、運が悪かったとしかいいようがない。あの時、海の中にアザラシがいなければ皆死ぬことはなかった。しかしそうなれば私が殺されていた。私は運が良かった。私は運試しの場を作ったにすぎない。
 言い訳にすぎないのは分かっているとも、だがそうでもしなければ私は亀を助けれらないのだ。
 私はいまだ眠ったままの亀の上に座る。雪が勢いを増して降りはじめ、風が強くなってきた。既に日は沈み気温はどんどん下がる。
 空を見上げると初めてカメと出会った日を思い出した。あの日、初めて私は自分以外の誰かと会話をしたのだ。初めて空を綺麗だと思えたのだ。
 私は自分でも気づいていなかった。私は寂しがっていたのだ。ただふて腐れていただけなのだ。アザラシに約束を守る理由があるかと問われ「あった」と答えた。ではそれが何か。今分かった。友達、家族、どの言葉にもあてはまらないが、私はカメに会話を求めている。ただいてくれる事を望んでいる。
 他人に興味を持たない馬鹿みたいな仲間より、カメがいてくれる方が楽しいのだ。
 吹雪はどんどん強くなる。だがカメの上にのったまま私は動かない。そうしている内にいつの間にか眠ってしまっていた。

 目覚めると昨日の吹雪は嘘のようにはれていた。積もった雪だけが吹雪があったことを表している。
「おはようございます」
 聞きたかった声。カメの声がいきなり後ろから聞こえる。
 振り向くと、アザラシのこぼした肉片を、カメが食べていた。
「これ何の肉ですか?」
 そう聞きながらも食べ進めるカメに、私は「魚だ」とうそをついた。
「貴方の毛に血がついていますが大丈夫ですか?」
 あまり心配していないような声で聞いてくる。
「私の血じゃない」
「そうですか。あまり無理はされないでくださいね」
 あまりに普通にしているカメに私は聞いた。
「カメは私に何を求める?」
 いきなりすぎる質問だ。私がされたら訳が分からないと一蹴しているだろう。しかし、カメは首を上げて私をみすえながら答える。
「私の命の保証です」
 ここに来てどこまでもマイペースなカメに、私は久しぶりに笑ってしまった。
「分かった」
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