桜色の人鳥

適当理論と小説置き場。たまに日記。小説を読むときはカテゴリ「目次」から。

Entries

昔の記憶

 これは私の物語です。
 私がまだ世の中の穢れを知らず純粋な心を持ち、目に入れてもむしろ薬となってしまうほど可愛らしかった頃、家族が一人増えました。
 その日の私は心の底から浮かれていました。心の中で小さな妖精達による彩り鮮やかな楽団が太鼓やラッパ、名前は知らないけれどどこかで見たことのある楽器を奏でながら歌を歌い踊っている。
 「夜はまだなの! パパは何をしているの!」と、叫び散らす私をママが少し困った顔をしながらなだめてくれました。
 幼き頃の私は少しだけやんちゃで、少しだけ悪い子でした。ママやパパにいつも困った顔をさせてわがままばかり言っていたのです。
 でも二人はいつでもお日様のような笑顔で笑ってくれるのです。
 私がそれを二人に伝えると、何と私のほうがお日様のようだと言い返してきたのです!
 私は太陽なんかじゃない、可愛らしい女の子だ! そんな意味の分からない怒りを募らせていました。
 しかし今日に限ってはそんな怒りも忘れていました。
 玄関の前で目を輝かせ野生のライオンのようにじっと獲物が帰ってくるのを待ちました。
 見つめていた扉のドアノブが動き一人の男性が玄関に入ってきました。
 その男性が私に気づいた時にはもう私は男性の懐まで潜り込み、両手を大きく広げ、男性の腰に手を回し思いっきり力を込めて叫びました。
「おかえりパパ!」
 パパは満面の笑みを浮かべ私を抱き上げると、玄関からリビングにあるテーブルまで私を運び、ひょいっと椅子に座らせてくれました。
 ママが冷蔵庫から白い箱をもってきて私の目の前に置いてくれました。
 私はその箱の中身を知っていました。
 去年も食べたそれは、雲よりもふわふわで雪のようにまっ白なその見た目と、鼻腔をくすぐる甘い匂いは私の心をどこまでも高ぶらせ宇宙まで意識は飛んでいくのです。
 その宇宙で私は宇宙人と出会い友達になり、友好の証に私の小指と自分の小指を絡ませまた会おうと別れを告げました。
 そして意識は大気圏に突入し、また体に戻ってくるのです。
 意識が体に戻るとママが箱から私の大好物のケーキを出してくれていました。そしてパパがケーキに蝋燭を刺していきます。
 なんということを! 私は激怒し、パパを叱ってやりました。
 それをみたママは棚の奥から目に優しくないほど妙にカラフルな蝋燭をだしてケーキに差し込んでいきました。
 蝋燭が五本刺さったケーキはカラフルな蝋燭のせいもあってファンタジーなUFOのように見えました。
 私はそれをすっかり気に入ってしまい、パパに対する怒りは何処かへ飛んで行ってしまいました。
 私が「早く食べたい」と言うと、ママが蝋燭に火をつけようとしましたが、パパがそれを手で制し、「少し待っててくれ」と玄関から外へでていってしまいました。
 しばらく待っているとゴロゴロゴロと唸り声のような音が聞こえはじめ、リビングに近づいてくると扉の前でとまりました。
 扉が開き、パパとがリビング入ってくると、その後ろに全体的に丸みがあるボディをしたロボットさんが入ってきました。
 ゴロゴロ唸っていたのはロボットさんがローラーをまわして移動する音のようでした。
 
 パパは、「どうだ!」とでもいいたげな顔をし、ママは「いくらしたの?」と静かな怒りを声にのせてパパを威圧しています。
 しかしそんなパパとママのやりとりよりも、私はもうロボットさんに夢中でした。
 ロボットさんに恐る恐る手を伸ばすとロボットさんはぎこちない動きで手を握ってくれました! 私は感動しロボットさんを抱きしめました。
 パパはママから逃げるようにこちらに駆け寄ってきて、ロボットさんのお腹をパカッと開けました。
 どうやらこのロボットさんには様々な機能がついてるらしいのですが私にはよく分かりません。
 はしゃぐ私をパパは抱っこして椅子に座らせ、急いで蝋燭に火をつけてママを私の後隣に立たせロボットの「録画」と書かれた赤いスイッチを押しました。
 パパはママの隣に立ちニコッと笑い、つられてママも笑い、それをみた私もうれしくなり笑いました。
 そして私は目の前の蝋燭をおもいっきり吹き消してやりました。
 こうして私は五歳の誕生日を向かえ、家はロボットさんを迎え、騒がしく楽しい一日を終えました。

 それから私は毎日ロボットさんと遊びました。それはそれは素敵な毎日で言葉では語りつくせません。
 ロボットさんに「大きくなったらロボットさんと結婚する!」と告白した日もありました。
 その時のパパの顔はなんとも言えない顔をして笑っていました。ママはこっそり笑っていました。
 何回目かの誕生日に私も思春期を終え、物事を冷静に分析できるようになったころ、どれだけ自分がパパとママに愛されてきたのかを理解しました。
 ロボットさんを前に私は大きな声で宣言してやりました。
「パパ!ママ!大好き!」
 二人は少し驚いた顔をしていたが、昔から変わらないお日様のような笑顔でニコニコしていました。私はその笑顔が大好きでしたので自然と私も笑いました。
 昔のようにお日様のようだと伝えると、二人とも声をそろえてあなたの方がお日様らしいと笑うのでした。

 私が高校を卒業して間もなくパパは事故で死んでしまいました。突然のことでありました。
 どうやら雨の中を一人家に向かって帰ってくる途中に車に轢かれたそうです。
 パパの鞄の中にはカラフルな蝋燭が入っていたそうで、私はもうすぐ自分の誕生日であることを思い出しました。
 ママはあの人らしいじゃないと笑ってはいましたが目は曇り空のようにどこまでも曇って見えました。
 ロボットさんもどこか寂しそうに見えました。
 パパは私をお日様のようだといいましたがそんなことはありません。お日様は泣きませんから……。
 私はパパがいつもそうしていたようにロボットさんのお腹を開き、赤いスイッチを押しロボットさんの顔を見ながらはっきりと聞こえるように、天国へ届くように叫びました。
「パパが天国にいっても私たちはいつまでも忘れない! パパの太陽のような暖かくて優
しい目が大好きでした。お日様みたいに笑う顔が大好きでした。パパが大好きでした。あ
りがとう……ございました」
 喉が痛い、目を開くことが出来ない、涙が流れるのを止める事が出来ない、膝が震えるのを抑えることが出来ない。
 胸の鼓動が速すぎて自分ではどうすることもできません。誰かが抱きしめてくれました。しかし私は目を開くことが出来ませんでした。

 これはワタシの物語です。
 ワタシはいつもこの店の倉庫で眠っている。今までもこれからもここで眠ってそのうち朽ち果て風となり、世界を旅して最後にはどこか分からない遠くへ行くのだと思っていた。
 ある男が現れるまでは。
 その男は暖かい目をしていて空に上るあの丸い光を思わせる眩しい笑顔が特徴的な男であった。
 ワタシには関係ないと眠っていたのだが、あろうことかその男は私に近づいてきて小さな声でこういった。
「これからよろしくな」

 ワタシはその男に家まで招待されリビングに通された。
 そこにはケーキを前にワタシを見て驚く小さな女の子と母親らしき人物。するとこの男は父親だろうか? 
 女の子はワタシの前までトテトテと歩み寄って、ゆっくり手をつきつけてきた。ワタシの意思ではないがその小さな手を握り返してやると女の子は父親に似た眩しい笑顔で笑った。
 握るようにプログラムされていたから握っただけだというのに、ここまで喜んでくれるとはなんと無邪気な。
 父親がワタシのお腹を開き録画スイッチを押した。ワタシの無骨ながらどこか愛嬌のある顔に付いているレンズはカメラになっていてそこから映像を記録する事が出来る。他にも様々な便利機能がついているが一々語っていられない。
 どうやら今日は女の子の誕生日らしい。
 こうしてワタシは家に迎えられ、女の子は誕生を迎えた。

 それから毎日女の子はワタシと遊んだ。いや、ワタシは遊んでやったつもりはないが、女の子の楽しそうな顔をみるとどうでも良いことである気がしてくる。
 昼に女の子と遊び、夜になると父親が私をきれいに磨きながら呟く。
「ありがとう」
 女の子は少しずつ大きくなった。ワタシはそれを記録しつづけた。
 女の子はワタシを家族だという。ワタシは何も応えない、応えられない。
ある日ワタシは女の子に告白された。父親は少し複雑そうな顔で笑っている。ワタシも……しかし表情にはでない。
 その夜も父親はわたしを綺麗に磨きながら呟く
「結婚かぁ」
 寂しそうであったがワタシは何も言わない、言えない。

 それから何年かして父親は死んだ。女の子はもう子と呼べないほど大きくなった。
 彼女はワタシをまっすぐ見据えながら叫んだ、はっきりと何処かへ届けるように。
「パパが天国にいっても私たちはいつまでも忘れない! パパの太陽のような暖かくて優
しい目が大好きでした。お日様みたいに笑う顔が大好きでした、パパが大好きでした!あ
りがとう……ございました」
 彼女は目を閉じ涙を流す。
 ワタシの機械の体のよく分からない体内構造のなかで「何か」が湧き上がる。
 左胸が空洞のワタシの鼓動が響くのは何故だろうか? 
 涙を流さないワタシが泣いているのは何故だろうか? 
 膝のないワタシの体が震えているのは何故だろうか? 
 いつの間にかワタシは彼女の体を抱きしめていた。
 彼女の鼓動がワタシに伝わりワタシの鼓動となる。
 彼女の流した涙がワタシを伝いワタシの涙となる。
 彼女の震えた膝がワタシに伝わりワタシも震える。
 しかし湧き上がるこの「何か」は理由が分からない。
 ワタシは壊れてしまったのかもしれない。

 私がパパを失い途方にくれていた頃、運命の出会いを果たしました。
 その男性は神秘的な雰囲気を持っていて、とても魅力的な男性でした。
 彼は一日の終わりに必ず約束をします。
 約束をする時は必ず小指と小指を絡ませ言うのです。「また明日会おうね」と。
 私の曇った心に日が昇るかのようでした。私は彼を見ると心がざわつき冷静ではいられなくなってしまいます。これが愛というものなのでしょうか? 彼と過ごすときはとても楽しく言葉では語りつくせません。
 明日は何を話そうか、何をしようか?

 ワタシはあれから映像を記録することがなかった。何もすることがなく、ただ日々を無意味にすごした。
 彼女はまた笑うようになった。それは喜ばしいことだ。が、なぜか同時に寂しいような気がした。
 機械であるワタシが喜んだり、悲しんだりする事自体おかしい事なのだろう。

 私は結婚することになりました。綺麗な白い外壁の教会で、大きな鐘がついた素敵な式場です。
 私は自分の着ているドレスを見ました。
 それはケーキよりもふわふわで雪のようにまっ白なその見た目と、鼻腔をくすぐる花の匂いは私の心をどこまでも高ぶらせどこまでも飛んでいく事が出来ました。
 私の意識は雲を超え宇宙をどこまでも駆け抜けやがて視界が白く染まった頃、明るい太陽が目の前にありました。
 暖かくて懐かしい……そんな気がしました。
 意識が戻った私は何故だかロボットさんを思い出していました。

 ワタシは眠っている。
 彼女の結婚式があるらしいが私には関係のないことだ。このまま永遠に眠ってしまいたい。
 これまでの記録が走馬灯のように電子回路を流れる。
「ありがとう」
 声が聞こえた気がする。懐かしい、暖かい空に上る光のような笑顔が特徴的なあの男の声だ。ワタシは礼を言われる事なんかしていない。むしろ私が礼を言わなければいけないのだろう。
 私を起こしてくれてありがとう。
 そうだ、最後に彼女の映像を記録して眠ろう。そうして私に礼をいったあの男の所へ持って行ってやろう。
 彼女の元へ向かう私はやはり壊れているらしい。

 私は教会へ向かってくる一つの影を見つけました。
 それは良く知った形をしていて、全体的に丸みをおびたその体は紛れもないロボットさんでした。そして紛れもなく私達の家族でした。
 子供の頃はあんなに大きかったロボットさんは、もう私よりも小さくなっていました。
「私こんなに大きくなったよ。身長……抜いちゃったね」


 ワタシは自ら録画スイッチを押し彼女の顔を見上げた。
「私こんなに大きくなったよ。身長……抜いちゃったね」
 彼女はそう悲しそうに、そしてどこか嬉しそうに小さい頃と変わらない笑顔で笑った。男性と隣あって立つ彼女はどこまでも美しく実にお日様らしかった。彼女が「女の子」であった時、いつも一緒にいた二人を思わせる。
 鐘が大きく響く、巻き起こる拍手、優雅に舞う花。

 私はロボットさんに手を伸ばしました。

 ワタシは彼女に手を伸ばす。

 何かが飛んでくる音がする。どこの国の誰のものともしれない殺意が降り注いだ。
 爆弾を積んだ無人機が何機も上空を舞う。
 屋根は吹きとび人々は死んだ。ワタシは彼女を守ろうと手を握る。しかし飛んできた教会の破片が腕にあたり腕はちぎれ、彼女はワタシの腕ごと吹き飛んでしまった。

 私は吹き飛んだ腕ごと爆風と共に遠くへ吹き飛ばされました。何が起きたのかは分かりません。
 最後に見た光景はロボットさんとまっ白に染まる視界だけでした。
 寂しいのですが、これで私の話は終わりです。

 ワタシは眠る。最後に残ったエネルギーをすべてお腹にためる。
 いつかみんなでまたこの映像をみる日を夢みて眠る。
 これでワタシの話は終わりです。

 これは私とワタシの物語でした。
スポンサーサイト

*Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

右サイドメニュー

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR